カキカエブログ

薄口慶應ライター始めました

「この世界の片隅に」は戦中の呉の僅かに煙っぽい空気を吸える映画 ★★★★★

映画「この世界の片隅に」は順調に上映館数を増やし続け、ついには興行収入15億円を突破しました。

是非多くの人にも見て頂きたい映画です。

改めて、何が素晴らしいかったのか感想を書きたく思います。
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概要

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ストーリーとしては、すずさんが広島から呉に嫁いで、新しい家族の中に入り、戦中は少ない物資の中でどう笑って家族が過ごせるのか精一杯考えながら行動していくというものです。

すずさん、というのがこの作品の主人公で「のん」、こと能年玲奈さんが声優を担当しています。

基本的に女優をアニメに起用すると話題性のためであり、だいたい大爆死します。
しかしこの作品では、少し抜けていて明るいすずさんを表現できるのは彼女しかいなかったように感じます。

すずさんの弱さと強さに惹かれる

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私が一番物語に大切な部分は、登場人物との感情の同化を起こせるかどうかだと考えています。

よくジャンプの新人漫画家を発掘する為のコーナーでは、主人公には読者が自分を重ねられるように弱さと、読者が憧れるような強さの両面を持たせようという表記があります。

ところがこの作品、大きなドラマこそあれど、大きな勝利や幸福というものがありません。

しかし、萌え4コマ漫画のように、山なし、オチなし、意味なしというヤオイ映画ではございません。

なぜなら戦争ならではの貧しさや悲劇が彼女達を襲うからです。
しかし、それすらも湿っぽくなリ過ぎずに、淡々と戦前戦中の日常が続いていきます。

それでも観客は戦中の呉で何も対抗できないすずさんに自分を重ねながらも、同時に彼女の強さに強く惹かれます。

一体彼女のどこに強さを感じるのか?

それはどんな悲劇の中でも、暖かな笑顔を絶やさずに家族と家族や現実にまっすぐ向き合う誠実さにあります。

どんなに辛い事があっても、腹が減る。

当たり前なのですが、戦中の人々も人間なのです。

食事だけはありません。

綺麗な服に憧れを抱いたり、昔の大切な人に会って心が揺らいだり、思わず趣味のお絵かきに没頭したり、家事に失敗したり……

こういったすずさんの生活を空気感まで描こうとする意欲的な作品でした。

過剰になりすぎない演出

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実は私、あまり演出にこだわりがないのです。

ストーリー展開や、心情を追うのが好きで、演出はあくまでそれを盛り上げる小道具としか思えないからです。

だから「君の名は。」はどうしても納得がいかない部分があります。
何しろ二人の心境の変化が殆ど音楽によって表現されているので、ストーリーとしてはかなりそこを省いた表現となっていたため為です。
それでも面白い映画でしたが。

一方「この世界の片隅に」は淡々とした演出の中にポイントポイントでハッとするような演出が入っています。
例えば、呉が初めて空襲を受けるシーンでは、空に色とりどりの絵の具がぶちまけられます。

「今絵の具を持っていたら、私はどんな絵を書いたのだろう」

すずさんはボーっとそんな事を考えて動きが止まってしまいます。
急な状況の変化に対応できずに、つい自分のフィールドで物事を考えてしまっている様子が、この絵具の演出で分かるような形となっています。

他にも、過剰な演出というのは僅かしかなく、淡々と描かれる日常との対比によってクッキリと描き出されます。

こんな人にお勧めです

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  • 戦中の日本の庶民の生活を知りたい人
  • 生きていく事が辛い人
  • 安直な過剰演出に胃もたれしている人

公開館数も増えて、ますます見やすくなったので是非お近くの映画館で見て頂ければと思います。

ではでは♪
加々美でした。